定義
ゼロデータ保持とは、サービスが結果を返すために音声やテキストを処理し、その後は入力も出力も保存しない、ベンダー側の設定です。法的な定義はなく、正確な範囲は、ベンダーの契約と設定で決まります。
対象となる範囲
ゼロデータ保持は、ZDRと略されることが多く、法的な区分ではなく、製品の設定です。法律も規制当局も、これを定義していません。提供するベンダーは、利用規約や設定の中で、リクエストが運んできたデータを、応答を返したあとは保管しないと約束します。音声のサービスなら、音声、文字起こし、またはその両方が対象です。LLMのサービスなら、プロンプトと出力が対象です。
この言葉の裏には、いくつもの選択があり、2社のベンダーが、同じ言葉で別のことを指している場合があります。対象は音声だけか、テキストも含むか。すべてのエンドポイントに適用されるか、一部だけか。タイムスタンプ、所要時間、リクエストIDなどのメタデータは残るのか。エラーのトレース、キャッシュ、不正利用の監視、バックアップはどうなるのか。これらの一部だけを対象にした設定でも、ゼロ保持と呼ぶベンダーがあります。ですから、判断のよりどころは契約です。
何が求められるか
法律はこれを求めておらず、この言葉に法的な地位を与えてもいません。実際に存在する義務を果たすための手段の1つです。たとえばGDPR第5条1項(e)の保管制限の原則は、個人データを、必要な期間を超えて、識別できる形で保管してはならないと定めています。何も保管しなければ、そのベンダーが担当する段階については、この原則を満たしていると示しやすくなります。ただし、そもそもそのデータを処理してよい適法な根拠が得られるわけではありませんし、ほかの義務がなくなるわけでもありません。
ベンダーがHIPAAのビジネスアソシエイトにあたるかどうかも、これでは決まりません。HHSのクラウドコンピューティングに関するガイダンスは、電子PHI(電子的な保護対象保健情報)を保持するクラウド事業者を、データを見られない場合でもビジネスアソシエイトとして扱っています。また、単なる経路(コンデュイット)の例外は、情報を一時的にしか保存しない伝送サービスに限られるとしています。何も保持しない処理サービスがこの線の内側か外側かは、法務担当に確認すべき事項です。HIPAAとGDPRもあわせてご覧ください。
音声エージェントにとっての意味
1社のベンダーでゼロ保持にしても、それは連鎖の中の1つの輪にすぎません。音声エージェントの通話は、通信事業者、音声認識サービス、LLM、音声合成サービス、自社のプラットフォーム、分析基盤のそれぞれを通る可能性があります。1社が何も保持していなくても、ほかのプロバイダーは音声、文字起こし、ログを保持しているかもしれませんし、自社も同じです。
また、保存しないことで、失うものもあります。音声や文字起こしが残らないと、問題のあった通話の原因調査、品質レビュー、紛争の解決、学習データの確保が難しくなります。業界のルールによっては、別の場所に記録を残すよう求められることもあります。データの種類ごとに保持期間を決める方法はデータ保持で、そもそも録音してよいのはどんなときかは通話録音の同意で説明しています。
SOC 2報告書からは、ベンダーが保持しているデータへのアクセスをどう管理しているかがわかります。ただし、何も保持していないことの証明にはなりません。保持に関する条件は、書面で確認してください。データを自社のインフラの中にとどめる導入方式については、オンプレミス音声AIのガイドで取り上げています。
法務担当に確認する質問
- このベンダーは、具体的に何を保存しないのか。それはどのエンドポイント、プラン、リージョンに及ぶか。
- どのメタデータ、ログ、キャッシュ、バックアップが残り、どのくらいの期間残るか。
- この設定はどのように有効にし、どのように検証するのか。アカウント単位か、リクエスト単位か。
- 何も保持しないベンダーとも、ビジネスアソシエイト契約やデータ処理契約は必要か。
- 業界のルールや起こり得る紛争を踏まえると、自社で保管すべき記録はどれか。
関連用語
ガイド
出典
- HHS Office for Civil Rights, Guidance on HIPAA and cloud computing (context on stored and transient data)
- Regulation (EU) 2016/679 (GDPR), Article 5(1)(e), storage limitation (context, not a definition of the term)
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最終確認日:2026年10月19日