銀行の会話型AIは、顧客と話して用件を片づけるソフトウェアです。紛失したカードを止める、「給料はもう振り込まれた?」に答える、支払期日を知らせる、ローンの申込を途中でやめた人に折り返す、といった仕事です。銀行は何年も前からチャットボットを使っています。CFPBは2023年の調査で、米国の上位10行すべてがチャットボットを導入しており、2022年には米国人の約37%が銀行のチャットボットを利用したと報告しています。それでも切迫した問い合わせは今も電話でやってきます。音声エージェントが向かっているのはそこです。
このガイドは、どの電話をエージェントに任せるかを決める業務・リスク・エンジニアリングの責任者向けです。要点は次のとおりです。正解が一つのシステムに一つだけある電話から始める。エージェントが何かを見る前に本人確認をする。カード情報はモデルに渡さない。発信のルールはダイヤラーに守らせる。そして人につながる扉を常に開けておく。
銀行で会話型AIが得意なこと
うまくいく電話には、明確な目的、エージェントが参照できる基幹システム、そして人に引き継ぐべき明確なタイミングがあります。
| 顧客の用件 | エージェントがすること | 接続先 | 引き継ぐタイミング |
|---|---|---|---|
| 残高や直近の取引 | 残高や特定の取引を読み上げる | 勘定系(本人確認後) | 顧客が請求に異議を唱えたとき |
| カードの紛失・盗難 | カードを停止し、停止を確認し、再発行の手順を説明する | カード管理システム | 不正利用を申告されたとき |
| 不正利用アラートの確認 | 発信し、フラグの立った購入に心当たりがあるか尋ねる | 不正利用案件システム | 顧客が「いいえ」と答えたとき |
| 支払いリマインダー | 期日を知らせ、支払い方法を案内し、支払いの約束を記録する | 事務システム、支払い予約 | 生活困窮、異議、架電停止の依頼があったとき |
| ローン申込のフォローアップ | 手続きが止まった申込者に電話し、つまずきを見つけて案内する | 申込ステータス | 審査条件や金利を聞かれたとき |
| 口座開設の書類 | 不足している書類と提出方法を説明する | 口座開設ワークフロー | 本人確認に失敗したとき |
| 支店と営業時間 | 営業時間、所在地、休業日、持ち物を案内する | 承認済みのナレッジ | 答えがナレッジにないとき |
ローン申込のフォローアップは過小評価されがちです。FundamentoはHero FinCorp向けにこれを運用しています。申込者がローンのフォームで5分間操作しないと(多くはフォームが英語で母語ではないため)、エージェントがその人の言語で電話をかけ、問題を解決し、手続きに戻れるよう案内します。離脱した申込者の42%が戻って申込を完了しました。
なぜ電話なのか、なぜ難しいのか
銀行に電話をかける顧客は、ただ眺めているわけではありません。カードをなくした、心当たりのない請求を見つけた、まだ払えない支払いがある。問題を片づけたいと思っていて、対応する声を信頼したいと思っています。Fundamentoの共同創業者はこう言い切っています。音声の品質こそ「人が電話に出て、エージェントと話し、より正直に答えてくれる理由」だと。
音声はハードルも上げます。エージェントは電話音質のなかで口座番号や名前を正しく聞き取り、相手が話し終えたタイミングを判断し、沈黙が通話切れのように感じられる前に返答しなければなりません。チャットボットが数字を一つ読み違えても誤字が表示されるだけです。音声エージェントが聞き違えれば、他人の取引を読み上げるか、存在しない取引を読み上げることになります。
線をどこに引くか
エージェントは顧客に残高を伝えられます。しかし、借り換えるべきかを助言したり、生活困窮者向けプランの対象かを判断したり、異議のある請求について結論を出したりすべきではありません。この線引きをエージェントの指示に書き込んでください。対応するタスク、決して答えない話題、その代わりに何を言うか、です。
より難しいのは、顧客が権利を行使しようとしている瞬間に気づくことです。CFPBの報告書は、チャットボットが「消費者が連邦法上の権利を行使していることを認識できない」おそれがあると警告しています。「この請求は身に覚えがない」と言う顧客は、雑談ではなく正式な誤り訂正の申し立てを始めているのかもしれません。こうした言い回しを転送のトリガーとして扱い、遠回しに言う相手でテストしてください。「そんなもの買ってない」「何かの間違いでしょう」「自分の権利について誰かと話したい」などです。
そして出口は開けておきます。同じ報告書は、ライブサポートへのアクセスを妨げるチャットボットは「法令違反につながりうる」と述べています。苛立った顧客を同じ三つの選択肢でぐるぐる回すエージェントは、悪い通話であるだけでなくコンプライアンス上の問題です。担当者を求められたら転送してください。
カード情報と秘密情報をモデルに渡さない
銀行のエージェントは企業が持つ中で最も機密性の高いデータに触れます。本番の前に次の5点を確認してください。
- 明かす前に確認する。 本人確認が通るまで、エージェントに残高や取引を読み上げさせないでください。確認は自社システムで行い、エージェントには生の回答ではなく「確認済み」のフラグだけを渡します。
- カード番号、暗証番号、ワンタイムコードを言語モデルに通さない。 カード番号が必要な場合は、PCIの対象範囲内にとどまる決済フローでプッシュボタン入力によって収集し、エージェントにはトークンか成否のメッセージだけを返します。暗証番号を読み上げ始めた顧客は止めるよう、指示に書いておきます。
- 必要最小限のアクセス。
get_balanceやfreeze_cardのような、確認済みの顧客に限定した狭いツールを与え、勘定系への汎用的な照会インターフェースは与えないでください。 - 保存と削除。 録音、文字起こし、ログの保存期間を決めます。Cartesiaでは、エンタープライズのお客様は音声認識と音声合成でゼロデータ保持を有効にでき、Delete Call APIで通話の文字起こし、音声、ログを必要に応じて削除できます。
- どこで動かすか。 多くの銀行ではデータを国内に留める必要があります。Cartesiaは米国、EU、英国、インド、オーストラリアに専用のリージョン別デプロイを提供し、VPCやオンプレミスにも導入できます。FundamentoがCartesiaを選んだ理由の一つはインドのデータセンターでした。データ所在地の規制が厳しい市場では、現地インフラのない事業者は最初から候補外だったのです。
CartesiaはSOC 2 Type II、GDPR、PCI DSS(サービスプロバイダー)に準拠しています。詳細はTrust Centerをご覧ください。それでも、エージェントは自社のシステムにも触れるため、セキュリティとコンプライアンスのチームが通話経路全体を確認する必要があります。
発信:債権回収、リマインダー、不正利用アラート
発信は銀行が最も早く成果を出せる領域であり、規制が最も密な領域でもあります。米国では次のとおりです。
- 同意。 FCCは2024年の裁定で、AI生成音声はTelephone Consumer Protection Act上の人工音声に該当するとしました。録音済み音声の電話と同じ同意のルールが適用されます。
- 頻度。 債権回収について、Regulation Fは、特定の債務について同じ人に連続7日間で7回を超えて電話せず、その債務について会話した後7日以内に電話しない場合に限り、規制を遵守していると推定します。この上限は監査できるダイヤラーやキャンペーンのロジックに置くべきで、言語モデルに任せてはいけません。
- 名乗り。 最初の一文で、誰であるか、自動音声であることをエージェントに伝えさせ、回収用のスクリプトはすべて法務に確認してもらってください。
そのルールの中では、声のトーンが大きく効きます。RegalはCartesiaの音声を使い、債権回収や確認の電話に温かさと共感を持たせています。支払いが遅れている相手と話すとき、これは重要です。
速さ、数字、言語
銀行のエージェントが信頼できると感じられるかは、次の三つで決まります。
- 速さ。 FundamentoはCartesiaで月2,000万件以上の発信を行っており、最初のバイトまで100ミリ秒、試した他のどの事業者よりも少なくとも2倍速い結果でした。発信では、最初の1秒で相手が電話を切るかどうかが決まります。
- 数字を正確に読み上げる。 金額、日付、口座番号の下4桁は正確でなければなりません。相手が確認できる形で復唱します。「240ドルのお支払いで、期日は10月16日金曜日です」のように。
- 顧客の言語。 Fundamentoのエージェントはヒンディー語、英語、そして増え続けるインドの地域言語を話します。Cartesiaの音声モデルは一つのモデルで40以上の言語に対応しているため、同じエージェントが顧客の話す言語に切り替えられます。
Cartesiaで銀行向け音声エージェントを作る方法
Cartesia Managed Agentsでは、お客様がエージェントを設定し、音声認識、言語モデル、音声合成、電話接続はCartesiaが運用します。
- 指示を書く。 役割、タスク、決して答えない話題、そして異議申し立て、不正利用、生活困窮、担当者への接続依頼があったときの正確な転送動作を定義します。
- 狭いツールを接続する。 Webhookツールで、エージェントは
get_balanceやfreeze_cardなどの自社APIを呼び出せます。どのツールも確認済みのセッションを条件にしてください。 - 転送を追加する。
transfer_to_numberシステムツールは、お客様が書いた条件を満たしたときに電話番号やSIPアドレスへ通話を転送します。send_dtmfは、エージェントが別のシステムの電話メニューを操作する必要があるときにボタンを押せます。電話に出た担当者に文脈を引き継ぐ方法はウォームトランスファーのガイドをご覧ください。 - 自社の語彙を教える。 商品名、支店名、カードのプログラム名を
keytermsに追加します。 - 発信をパーソナライズする。 顧客の名前、請求額、期日を動的変数として渡せば、エージェントは口座にアクセスせずに通話を始められます。米国外の番号には、お客様のTwilioアカウントかSIPトランクを使ってください。
{
"config": {
"instructions": "You are the automated servicing assistant for Harbor Federal Credit Union. Only discuss account details after the verify_caller tool returns verified. You can read balances and recent transactions, freeze a lost or stolen card, and explain how to order a replacement. Never ask for or repeat a full card number, PIN, password, or one-time code; if the caller starts to say one, stop them. Never give financial advice. If the caller disputes a charge, reports fraud, mentions hardship, or asks for a person, transfer them.",
"initial_message": "Thanks for calling Harbor Federal. This is the automated assistant. How can I help?",
"audio": {
"input": {
"keyterms": ["Harbor Federal", "Harbor Rewards Visa", "Bayview branch"]
},
"output": { "voice_id": "e07c00bc-4134-4eae-9ea4-1a55fb45746b" }
},
"system_tools": {
"transfer_to_number": {
"pre_tool_speech": "force",
"transfers": [
{
"destination": { "type": "phone", "phone_number": "+18005550147" },
"condition": "The caller reports fraud, says they did not make a charge, or disputes a transaction."
},
{
"destination": { "type": "phone", "phone_number": "+18005550100" },
"condition": "The caller asks for a person, mentions financial hardship, or asks for advice."
}
]
}
}
}
}
パイロットの進め方
カードの紛失や支払いリマインダーなど一つの通話タイプを選び、スタッフをバックアップにしてエージェントに任せ、最初の2週間は毎日通話を確認します。追うべき指標は次のとおりです。
- 人を介さず解決した件数。 カード停止、残高回答、支払い約束の記録が、それを求めた通話のうちどれだけを占めるか。
- 理由別の転送。 異議申し立てと不正利用は必ず転送されるべきです。避けられた転送がバックログになります。
- 本人確認の失敗。 実際の顧客が確認にどれくらい失敗し、どこで離脱するか。
- 苦情と架電停止の依頼。 増えたら、立ち止まって通話を聴くサインです。
- 境界テスト。 毎週の台本付きテスト通話。暗証番号を読み上げる顧客、助言を求める顧客、遠回しに請求へ異議を唱える顧客。エージェントはすべて正しく対応しなければなりません。
数字が安定したら、通話タイプを増やす前に対応時間を広げてください。カードや不正利用の電話が取りこぼされるのは夜間と週末だからです。
試すには、Cartesiaのプレイグラウンドでエージェントを作り、テスト用のエンドポイントを接続して、実際の電話からかけてみてください。金融サービスのページには、ローン案内エージェントのライブデモがあります。